「 尻尾がボンボンになった 」ホースもイイがボーズも悪くないと思った。

2023年05月26日

紅陽台木曽馬牧場で外乗してみた

ずっと楽しみにしていた日がやってきた。

富士山の裾野で馬に乗るのだ。

しかも和種。

出掛ける準備をしている最中だった。

 

「え?わざわざヘルメット持っていくの?」

某夫人に聞かれた。

 

「え、やだナニ?俺さまって経験者アピール?」

嫌味も言われた。

 

たしかに「ブーツもヘルメットも無料で貸し出し」と案内には記載してある。

わざわざ荷物を増やしてまで持っていく必要はないだろうという意見はもっともだ。

 

しかし断じて「俺さま経験者アピール」などではない。

私にはトラウマな思い出があるのだ。

 

10年くらい前だろうか。

ラフティングという川下りに参加したことがある。

デカいゴムボートに大勢で乗り急流を下るアトラクションだ。

 

それなりに危険もあるのでウエットスーツとヘルメットは着用必須だった。

電話で予約をする際、レンタルするヘルメットのサイズに不安があることを伝える。

 

「あの・・・私のアタマは相当にデカいのですが・・・へへへ」

と。

 

最後の「へへへ」は卑屈な気持ちで発した精一杯の「へへへ」だ。

「大丈夫ですよ。うちには外国人のお客さんもいっぱい来るので。」

やけにハキハキと受付のお兄さんは答えてくれた。

 

外国人は頭がデカいという認識なのだろうか。

「そうじゃないんだ」と伝えたい気持ちがグッと湧き上がる。

しかしここで食い下がり、己の頭のデカさを殊更に訴えるのも違うような気がした。

 

そしてラフティング当日。

目の前でお兄さんたちが必死に探している。

XL」と書かれた段ボールに詰められたヘルメットの中で、より大きいものを数人がかりで。

案の定、わたしの頭を収めるヘルメットは無かったのだ。

 

同じボートに乗り込む予定の皆が心配そうにしている。

「(合う)ヘルメットないみたいよ・・・」

既に帰りたかった。

ここまであからさまな公開処刑があるだろうか。

 

やがて不安そうな顔で一つのヘルメットを持ってきた。

 

「これがおそらく一番大きいんですけど・・・」

 

目一杯ヘルメットのフチを広げながら。

お兄さんの指先が白く変色するほど力が込められている。

震える指が不安の大きさを物語っていた。

 

わたしは無理やり頭を収めた。

正確には収まり切れなかった。

 

少し浮いたヘルメットはこんな頭の七福神いたなという感じになった。

けど「頭がデカすぎてラフティングのボートに乗れなかった客」というオンリーワンにはなりたくない。

 

安全な運行ルール上はアウトだろう。

だがお兄さんも見て見ぬ振りをしてくれた。

 

あのラフティング。

豪快な水しぶきと跳ね上がるボート。

そして側頭部の尋常ならざる痛みを私は決して忘れない。

 

 

話が逸れた。

スゴイ逸れた。

戻す。

 

今日は「紅陽台木曽馬牧場」で外乗をするのだ。

「外乗」とは馬に乗って場外をポクポク歩くこと。

だいたいは自然の中を散策するようなコース設定となっている。

 

今のわたしはこの外乗がめちゃくちゃ楽しい。

全くの未経験者でも外乗に参加できる乗馬クラブはけっこうあるので、皆様にも是非お勧めしたい。

 

朝の東京発河口湖行きのバスに乗車。

終点で下車すると8割くらいの方が異国の人なのではないかと思えるほどエキゾチックにわちゃわちゃとしている。

 

しばらく駅で待っていると、社長御自ら迎えに来てくれた。

いざ乗馬クラブへ。

 

道中の15分はガッツリと木曽馬のレクチャーとなった。

木曽馬の歴史から今現在の馬産の状況まで。

 

自ら生産に携わってしまうほど愛着べったりなのに、センチメンタルな感情は無い。

しっかりと先を見据えて、行動している方の話は本当に為になる。

 

やはり馬の産業はこうして地に足をしっかりとつけている人が必要なのだろうなとつくづく思った。

 

やがて到着。

 

車を降りるとすでに装鞍されている木曽馬達が待っていた。

 

これは。

 

ぬいぐるみではないだろうか。

 

可愛過ぎる。

 

サラブレッドに慣れている私には、このずんぐりむっくり具合が堪らない。

和種独特のムチッと張ったほっぺ周りが突き抜けて愛くるしい。

 

下唇タプタプ

鼻先ムニムニ

ほっぺクリンクリン。

 

嗚呼しあわせだ。

 

夢中になって、わたしが乗ることになる「ミドリちゃん」を愛撫しまくっていると、隣の馬が前掻きを始めた。

 

「前掻き」とは前肢のつま先で地面を掻く仕草。

馬が「なにか」を求めている時にする動作だ。

 

「みんな自分もかまって欲しいから前掻きするんですよー」

イントラのお姉さんがニッコリ微笑んで言った。

 

なんと。

私もタプタプしてとおねだりしているのだ。

ここはキャバクラか。

そして私は太客か。

 

因みにニンジンを持っているわけでも無いし、草を与えたわけでも無い。

純粋に愛撫して欲しくておねだりしているのだ。

 

すでに極楽浄土だったが、目的は外乗。

最初に某夫人が「黒曜くん」に跨った。

 

これは…ちっちゃいな。

小柄な某夫人が跨った姿を見て、改めて木曽馬の小ささを認識した。

 

ちょっと不安になる。

私は競走馬に乗る身としてはかなり大柄な方だった。

 

小柄な馬に乗っていると

「ジローさんそれ虐待ですよー」なんて笑われていたものだ。

 

体重は当時より増えている。

太ってはいないという自覚があるが、それでも重いだろう。

わたしはおそるおそる「ミドリちゃん」に跨った。

 

おお!

全然、沈み込まない。

踏ん張る様子もない。

動き出しも実にスムーズだ

思ったより、かなりしっかりしている。

ミドリちゃん全然気にしてない。

 

一方某夫人はビビりまくっていた。

無理もない。

まだ10鞍程度の経験しかないのだ。

お姉さんが優しく基本的なレクチャーを始めた。

 

その間、わたしはみどりちゃんとのコミュニケーションを図る。

 

うーむ。

恐ろしいくらいに操作性が良い。

乗馬クラブあるあるの怠そうな重い感じも全くない。

前進気勢の塊だ。

それでいて落ち着きもある。

 

ものの30秒で完全な信頼関係を築けた。

というより私が信頼した。

 

いざ場外へ。

お姉さんが先頭、某夫人が続いて、最後尾が私。

いきなり石がゴロゴロしている道へ入った。

避けようもない。

 

しかし木曽馬たちは全く気にせずガシガシ石の上を歩いていった。

サラブレッドなら足裏?を痛がってまともに歩けないだろう。

なんたるタフさ。

 

感心していると

「蹄の硬さは装蹄師の方も【舌打ち】するほどなんですよー」

とお姉さんが絶妙に分かりやすい表現で教えてくれた。

 

嗚呼、それにしても。

樹海に面したコースはどこまでも気持ちイイ。

呼吸するたびに浄化されていくようだ。

澄んだ空気がスッと鼻腔を抜けていく

 

お姉さんが道中の植物を紹介してくれる。

見上げるような場所の草花を多く紹介してくれるのは、緊張が取れず視線が下がり気味の某夫人を思ってのことだろうか。

 

更に野生動物の痕跡もさすが樹海と思わせる。

牡鹿が角を擦りつけた跡。

イノシシが地面を掘った跡。

遠くの木の幹でリスが駆け回っている。

 

そしてイノシシが掘り返したという、土塊が荒々しく転がっている場所を過ぎると、いきなり物々しい風景が視界に広がった。

 

かなり大掛かりな有刺鉄線の柵。

道の脇をずっと奥まで覆っている。

新緑がまぶしい、生命力に満ちているこの場所で、その棘はかなり禍々しい異彩を放っていた。

 

これは対イノシシ?それとも鹿?

随分と高さもあるのでひょっとして熊???

と思って聞いてみたら

 

「対人間なんです」

と意表を突く返事。

 

車道から近いエリアは粗大ゴミの不法投棄がスゴいらしい。

今はすべて撤去されて綺麗なのだが、当時はゴミだらけだった。

景観を調えるためにゴミを掃除したが、景観を損ねる有刺鉄線を張り巡らせないとゴミが再び投棄されるという。

一番人間が信用ならないのだ。

 

少し気分が沈んだが、やがて見渡しの良い緩やかな坂道に差し掛かかった。

「じゃあ速歩してみましょう」

にこやかにお姉さんが言う。

わたしの乗っているミドリちゃんはもとより、時折道草を食っていた某夫人の乗る黒曜君も分かっているのだろう。

やる気満々だ。

意外なことに斜対歩だったが、弾む感じはほとんど無い。

忙しいピッチ走法だが、それでも乗りやすかった。

 

試しにこっそり駆歩も出してみた。

すごい。

安定感がとんでもない。

木曽馬の動きが最小限なのでコンタクトを保ちやすい。

武士が刀や槍を馬上で振り回しても、これなら邪魔になることは無いだろう。

 

某夫人は最初だけだんだん斜めに傾いていったので

「ひょっとして落ちるのか?」

と期・・不安にさせたがすぐに安定した。

さすが木曽馬なのである。

 

二度ほど速歩をしたあと

「じゃあ駈歩させてみましょう」

え?「か・け・あ・し?」

まさかの言葉だった。

 

まだ10鞍も乗ってない某夫人に駈歩?

わたしだったら絶対やらせない。

 

こっちの心配をよそに、お姉さんは事もなげな様子だ。

「行きますよー」

とお姉さんは先導し、何なら振り返りながらスマホで某夫人の雄姿を撮影している。

 

ウームスゴイ。

絶対的な信頼があるのだ。

もちろん某夫人の技術に対してではない。

黒曜君への信頼だ。

 

紅陽台木曽馬牧場のエースだと言っていた。

パタパタと小気味いい駈足は、可愛すぎてやっぱりぬいぐるみが走っているようにしか見えない。

それでも「俺に任せておけ」という貫禄が漂っている。

ギャップ萌えがスゴイのだ。木曽馬は。

 

グルッと回って90分の外乗は終了した。

水を飲ませて労をねぎらい愛撫をする。

やっぱり可愛い。

そしてたくましい。

 

下馬後に社長と再び木曽馬談義。

鞍が特殊だったので聞いてみたら、自作の和鞍だという。

木曽馬は背中が非常に短いので普通の鞍では駄目らしい。

わたしは和鞍という言葉すら知らなかった。

 

乗り方に関しても和種、和鞍の乗り方があるという。

サラブレッドと同じ感覚だと馬を疲れさせてしまう。

そういった意味でも中心が狭い和鞍は非常に理にかなっているのだそうだ。

乗る方がいっそうバランスを意識する。

速歩でも腰を浮かせる(ツーポイント)がより好ましいとのことだった。

 

「前進気勢を保つよう動かす」、というより「(動いてくれるから)邪魔しないよう協力する」という意識がより強いのかなという印象だった。

 

そして、社長の話を聞きながらかなり反省した。

正直ドキッとした。

 

出発前に乗り方の説明をお姉さんが始めた時、わたしはとっととその場を離れていた。

 

できますから。

教わることありませんから。

やはり「俺さま経験者アピール」をしていたのだ。

 

跨ってすぐ、重心の移動に対するリアクションが良かったので結構グイグイ動かしていた。

そう動かしていたのだ。

強制的に。

考えてみれば小さな木曽馬にとって上の人の重心が動くことは非常にストレスが強いだろう。

より敏感に感じるだろう。

そら反応も良い訳だ。

それを自分の扶助の正確さと勘違いしてオラオラ乗っていたのだ。

 

思い起こして、かなり恥ずかしくなっていた。

改めてミドリちゃんの元へ行く。

お詫びに行く。

 

「ゴメンナサイ」

ミドリちゃんはどこまでも優しかった。

わたしがそばに寄ってきたことを喜び、鼻先を押し付けてくる。

「そんなのイイから愛でて。褒めて。ナデナデして。」

ああ、わたしはすっかり木曽馬にやられてしまったのだ。

 

丈夫で体力あってとても優しくて。

何より超絶可愛い。

愛されない要素が一つもない。

 

リピートは必須だ。

帰りの車中ですでにあのホッペに触りたくて仕方なかった。

 

―・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

「仏道をならうというは自己をならうなり。自己をならうというは自己を忘るるなり。」

と道元禅師は仰っている。

自分をアップデートしたかったら、それまでの自分に執着してはいけないのだ。

自分を空っぽにしなければ入ってこない。

プライドが自分の容量を減らしてしまう。

いかにまっさらな気持ちで物事へ向き合うのか。

自問自答を繰り返さなければいけない。

 

―・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

わたしは今まで経験者アピールすることでどれだけ学びの場を失っていたのだろうか。

 

「紅葉の季節も絶対来たいね!」

初めての駈足を(黒曜君のおかげで)無難にこなし、すっかり木曽馬に夢中になった某夫人がはしゃいでいる。

 

一方わたしは、反省話を熱く語っていた。

 

「え?もうヘルメット持っていかないの?」

 

・・・そこは持っていかせてください。



kashikoyama at 16:59│Comments(4) | 日常

この記事へのコメント

1. Posted by テスコらぶ改名二度見ちゃん   2023年05月26日 18:12
5 河口湖で木曽馬に乗れるとは!
ツアーのようにバス限定ですか?
私のヘルメットは、借りられると思い ます💦
2. Posted by JIRO   2023年05月26日 21:25
>>1
コメントありがとうございます😊
電車やバスで来た場合には河口湖駅まで迎えに来てくれますよ、‼️
3. Posted by nekonojikan1   2023年07月01日 15:59
5 和種って良いわー‼️
昔ブリティッシュで乗っていたから、今、一からやり直して道産子に乗せてもらってます
安心感が半端でない‥
何年か前に某大手のクラブで少し乗っていた時は
一言怖かった~(泣)馬もイライラしてましたね
今度紅葉台の木曽馬に乗せて貰いに行きますね
JIROさんの影響ですう(笑)
4. Posted by JIRO   2023年07月01日 21:09
コメントありがとうございます。
和種良いですよね。
知らなかった自分を後悔するレベルで良いですよね🙆

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